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量子力学の冒険(その16)

 現在2021年6月17日13時42分である。(この投稿は、ほぼ6414文字)

麻友「なかなか、決着付かないわね」

私「まだ、X線は、大丈夫だが、{\gamma} 線は危ない、ということが、説明し切れていない」

麻友「私には、昨日の、


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陽子2個が、くっついた、{\mathrm{{}^2_2He}} というものは、ないんだ。必ず、陽子がくっついているときは、{\mathrm{{}^3_2He}} の様に、横に、中性子が、1つ以上いるんだ。


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という太郎さんの説明で、{\mathrm{{}^2_2He}} が、陽子2個がくっついているというのが、分からないのよ」

私「確かに、説明不足だ。{\mathrm{{}^2_2He}} というのの、元素記号の左下の数は、陽子の個数を表している。一方、左上の数字は、陽子と中性子の数を表している。だから、{\mathrm{{}^2_2He}} というものが、あるなら、それは、陽子2個、中性子0個の元素となる。実際には、こんなものは、自然界に存在しない。一方、{\mathrm{{}^3_2He}} は、陽子2個、中性子1個の、ヘリウム3(へりうむさん)という元素で、自然界に微量だが、存在する。この定義を知ってみると、今までの核融合の式の謎も、解けるのではないかな?」

若菜「お父さん。分かっているものとして、書いてくるのだもの」

私「書いてある事が、全部分かるなんて、中学生くらいまでだよ」

結弦「でもまあ、お父さんの説明聞いていると、分かった気になるところが、凄いよな」

麻友「前々回に、


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[例] 太陽の物質には高温の水素({\mathrm{H}})やヘリウム({\mathrm{He}})があって,高速の陽子({\mathrm{{}^1_1H}}),重陽子({\mathrm{{}^2_1D}}) や{\mathrm{He}} 核がとびまわり,衝突して核融合反応を起こしていると考えられる。その反応式は

{\left\{ \begin{array}{l} \displaystyle

\mathrm{{}^1_1H+{}^1_1H \rightarrow {}^2_1D+e^{+}+0.93 MeV+\nu}   (♭-1)\\
\mathrm{{}^1_1H+{}^2_1D \rightarrow {}^3_2He+\gamma+5.5 MeV}     (♭-2)\\
\mathrm{{}^3_2He+{}^3_2He \rightarrow {}^4_2He+2{}^1_1H+12.8 MeV}  (♭-3)

\end{array}\right.}


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というのが、あった。水素原子2個から、水素分子ができるはずなのに、{\mathrm{{}^2_1D}} って、何よ。重水素と水素分子って、違うんでしょ」

私「これは、混乱するだろうな、と思いつつ、書いた。水素の原子2個から、水素分子ができるのは、あくまでも、化学の共有結合。水素は、1個だけ1s軌道に、電子を持っている。だが、本当は、ヘリウムみたいに、1s軌道に2個電子を入れて、安定な状態になりたい。そう思っていたら、同じようなことを考えている水素原子に出会った。それで、お互い自分の電子と相手の電子を、両方持っている気分になって、水素分子として、安定な状態になった。これが、共有結合による、水素分子({\mathrm{H_2}})の成り立ちだ」


麻友「それは、まだ分かる。でも、上のは?」

私「水素原子核(水素には違いないが、自分の電子と、はぐれてしまった水素)が、2個近付いて、くっついてしまって、一方の陽子から、その陽子をプラスたらしめていた、プラスの成分が、陽電子として逃げ去り、後に、陽子1個と、中性子が、残り、それらが結合して、重水素{\mathrm{{}^2_1D}} となったものなんだ」

麻友「陽電子? なにそれ」

私「この辺りから、素粒子物理学の域に達し始める。電子の反粒子を、陽電子というんだけど、陽電子というのは、時間を逆行する、電子なんだ」

麻友「時間を逆向きとか、もうドラえもんの世界の話しているけど、真面目に話してよね」

私「これ、真面目な話で、

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の絵の、右下から、光子がやってきて、そのエネルギーで、電子と陽電子が、できたとする。これを、電子陽電子対生成という。このうち、電子の方は、右に飛び去り、左に進んだ陽電子は、別な電子と出会い、対消滅といって、消えてしまい、エネルギーだけが、光子として残る。この反応を、良ーく見ると、左から電子が来て、光子を放出して、時間を逆行する電子となり、それが、右下で、光子と出会って、また、普通の電子に戻った。と、解釈できるんだ。詭弁といわれれば、詭弁だけど、物理学者は、そう考えている」

若菜「そんな、とんでもない話は、にわかには、信じられませんが、陽電子というものが、あるんですね」

結弦「上の反応式で、なぜ、最初の式だけ、

{\mathrm{{}^1_1H+{}^1_1H \rightarrow {}^2_1D+e^{+}+0.93 MeV+\nu}}   (♭-1)

と、{\mathrm{0.93 MeV}} の後ろに、{\mathrm{+\nu}} が、書いてあるんだろう?」

私「結弦、良く気付いた。これね、多分、初版のとき、誤植で、{\nu} が、抜けていたんだと思う。本当は、

{\mathrm{{}^1_1H+{}^1_1H \rightarrow {}^2_1D+e^{+}+\nu+0.93 MeV}}   (♭-1)

と、すべきだけど、活字が組んであるのを、直しにくいので、後ろに付けたんだと思う。今みたいに、ワープロや、{\TeX} で組み版している時代とは、違うから」

結弦「あー、そういうことか。お父さん、他に、そういうの、見破ったことある?」

私「実は、この前話した、Tさんと、『解析入門Ⅰ』のゼミをやっていたとき、

の70ページで、定理7.4は、これ自体が、ハイネ・ボレルの定理という定理なんだ。だが、本文で、

定理7.4 {\mathbb{R}^n} の部分集合 {K} に対し,次のa),b),c) は同値である.

a) {K} はコンパクトである.

b) {K}有界閉集合である.

c) {K} は点列コンパクトである.(ハイネ・ボレルの定理


と、c)だけが、ハイネ・ボレルの定理みたいに、書いてある。私が、変だね、と言ったら、Tさんが、自分のテキストを見て、『あれっ、僕のには、書いてないよ。多分後から、書き足すことになって、このページ書き足す余裕がないから、下に書いたんだと思う』と、気付いたことがあったんだ」

麻友「そういうのも、学問する悦びなんでしょうね」

私「私にとっての、数学は、常に真剣なものだったけどね」

若菜「お母さんに対して、ウソを付かないというのも、それと、同じですね」

結弦「でも、普通、そんなアタックかけられたら、女の人、逃げ出すよな」


私「ところで、


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{\mathrm{6{}^1_1H \rightarrow {}^4_2He+2{}^1_1H+2e^{+}+2\nu +2 \gamma+25.7 MeV}}   (♭-4)

 整理して、

{\mathrm{4{}^1_1H \rightarrow {}^4_2He+2e^{+}+2\nu +2 \gamma+25.7 MeV}}

 ここで,{e^{+}}陽電子{\nu} :中性微子,である。電子の質量 {m_{\mathrm{e}}} をエネルギーに換算すると

{m_{\mathrm{e}}=9.11 \times 10^{-31} \mathrm{kg}=0.511 \mathrm{MeV}}

 また,中性微子の質量はほとんど {0} とみてよい。


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というところで、なぜ、


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電子の質量 {m_{\mathrm{e}}} をエネルギーに換算すると

{m_{\mathrm{e}}=9.11 \times 10^{-31} \mathrm{kg}=0.511 \mathrm{MeV}}


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と書いてあるのか、分かった?」

若菜「えっと、電子のエネルギーですか? あっ、もしかして、

{\mathrm{4{}^1_1H \rightarrow {}^4_2He+2e^{+}+2\nu +2 \gamma+25.7 MeV}}

の式で、左辺が、{\mathrm{4{}^1_1H}} は、{4 \times 1.007~825~032 \mathrm{amu}=4.031~300~128 \mathrm{amu}} で、右辺が、{\mathrm{{}^4_2He}} は、{4.002~603~254 \mathrm{amu}} だけど、引き算して、{4.031~300~128-4.002~603~254=0.028~696~874 \mathrm{amu}} となる。{1\mathrm{amu}=931\mathrm{MeV}} だったから、この差は、{0.028~696~874 \times 931=26.716 \mathrm{MeV}} となる。でも、結論の式では、出てくるエネルギーは、{25.7\mathrm{MeV}} となっている。なぜだろう? と思った人が、『もしや、陽電子は、電子と同じ質量?』と、気付いたとき、右辺に2個、陽電子があるから、{0.511 \times 2=1.022 \mathrm{MeV}} を、{26.716 \mathrm{MeV}} から、引くと、{25.694\mathrm{MeV}} と、ちゃんと、{25.7\mathrm{MeV}} になる」

私「良く分かったな。


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 また,中性微子の質量はほとんど {0} とみてよい。


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の言葉も、その計算のために、書いてある」

若菜「あっ、そうですね」

麻友「太郎さん。結局、{\gamma} 線の話が、出てこないんだけど」

私「どれくらいのエネルギーの{\gamma} 線が、出てくるかの計算を見せようと思っていたのだけど、私にも分からなかったんだよ。ただ、『量子力学の冒険(その12)』で、バリウムでの光電効果の話をしたとき、仕事関数が、{2.51\mathrm{eV}} とかで、{\mathrm{eV}} レヴェルの話だった。ところが、原子核が、壊れるのくっつくのでは、{\mathrm{MeV}} レヴェルのエネルギーが、関与する。だから、光子だって、エネルギーが、6桁くらい違う。

 こういうことを、解き明かしていくのが、量子力学だよ。卑近な例を挙げるなら、酸素は、原子番号8だ。まず、1s軌道に、2つ。次に、2s軌道に、2つ、電子が入る。残りは、4つだ。入れるところは、{2p_x,2p_y,2p_z} の、3つの軌道だ。そうすると、例えば、{2p_x,2p_y} の軌道に、2つずつなどという、もったいない狭っ苦しいことは、自然はせず、{2p_z} 軌道に、2つ。後、{2p_x,2p_y} 軌道に、1つずつ入るんだ。{z} とは、限らないけどね。そうすると、どういうことになるかというと、{2p_x} の方向と、{2p_y} の方向に、誰かと共有したい電子の雲が、広がる。そこへ、電子1個の水素が2つ来れば、おあつらえ向きだ。


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というように、2つの共有結合が生まれる。そして、x-軸方向と、y-軸方向だから、水分子が、折れ曲がる理由も分かる」

麻友「あっ、そういうことだったんだ。水分子が、曲がっているって、理由があったのね」

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若菜「原子力発電所の話しないで、水分子の話だけにした方が、もっと、分かったかもです」

結弦「ただ、核融合の質量が減るっての、面白かったな」

私「ウランとかの、核分裂だと、どんどん壊れていって、いつまでも、放射線が出続ける。何百年にもわたって。だが、核融合の場合、そういうことは、ほとんどない。また、発電所で使うために、ウランの濃縮という過程が必要だが、重水素は、海の中に、たくさんあるので、エネルギー枯渇の問題は、ない」

麻友「少なくとも、古典力学では、こういうことは、扱えないのね。分かったわ。量子力学の冒険に、参加してみる。高い本買ったのですものね」

私「よーし。ゲームセットだ」


若菜「お父さん。何か忘れていません?」

私「何を?」

若菜「駆け落ち中だったじゃないですか」

結弦「『駆け落ちのシミュレート(その8)』で、止まってたね」

私「現実逃避してたんじゃ、ないんだ。量子力学から、単位系の話が浮かんで、と、5月7日から、40日間も、他のこと考えていた」

麻友「駆け落ち中も、数学や物理学のこと、考えているのでしょうね」

私「今日は、木曜日。本当は、『現代論理学』の日だった。『数学基礎概説』を、混ぜた方が良いかなと、スキャンも始めた。お店のコピー機だと、ピーッ、だけで、スキャンが済むから、気持ちが良い」

若菜「じゃあ、今日、それ、始めたらどうですか? 『核融合原子力発電所の話は、おしまい』として」

麻友「あまり、飛ばさないでね」

私「じゃあ、この連載は、ここまで。解散」

 現在2021年6月17日17時48分である。おしまい。